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『アナと雪の女王』のCG技術

『アナと雪の女王』を見てきた。

久々にディズニー映画を劇場で見たけど、なかなか感動。確かにお姫様らしいお姫様のいない、でもやっぱりお姫様な、新しい表現を探ってる感じ。この作品を見て育った子供たちは、白雪姫とかシンデレラを見て育った世代と、確実に違うものへの憧れをいだくんだろうなあ。

主題歌『Let it go』の人気も凄まじい。

ディズニーがにアップしている劇中歌の動画は、各国語版ごとに再生回数が数千万回超え。エンドロール用に歌手が歌ったものは、J-POPのように聞こえてつまらなかったけど、松たか子が劇中歌として歌った方は素晴らしい。自分でもあのシーンこそ作品のクライマックスと感じて、再生回数にかなり貢献してしまった。賛否はあるだろうけど、日本語翻訳版の歌詞の方が、英語版にある卑屈さや反発的な強さみたいなものが無く、純粋に開放された歓びを歌っていて良かった。

一緒に歌おう『アナと雪の女王』「Let It Go<歌詞付Ver.>」 松たか子 -

では、『アナと雪の女王』のCG技術。昔CGを少しかじっていて、今も興味だけは持ち続けている程度の知識だけど、あの作品でCG技術に興味を持った知人のためにも、なるべく簡単に解説してみる。

3DCGって?

コンピューターを使って絵を描くこと、そして描かれた絵の全般を「CG」と呼ぶ。CGの技術が発展してきた現在では、アニメや映画だけでなく、バラエティー番組や教育番組でも、CGが使われない日はない。それぐらい、色んな用途に使えるようになり、当たり前の存在になっている。

そのCGという技術の中には、3DCGという大きな分野がある。これはその名の通り立体的な絵をコンピューターに描かせよう、っていうもの。立体的といっても、最近映画館で見かける「メガネを掛けると飛び出て見える3D」とは、関係はあるけど別のもの。

イラストやアニメのように、平面的な絵をCGで描くのが2DCG。紙を用意して、そこに鉛筆や絵の具で描くのに似てる。実際には色の付いた小さな点をたくさん敷き詰めることで、人間の目にはひとつの絵に見える。その小さな点の色を決めるのが、「2DCGを描く」ということになる。

一方3DCGでは、現実の世界と同じように、立体的な存在を描こうとする。これは描きたい実物を用意して、それを写真やビデオに撮るのと似てる。2Dの小さな点では立体が表現できないので、代わりに、ペーパークラフトのような面を使う。ペーパークラフトは作りやすいよう大きな面が使われるけれど、3DCGでは、何かの形を表現するのに充分な小さな面を集めて使う。そしてその面がどんな色になるのかを決める。最後に、コンピューターの中の仮想のカメラを用意して、撮影する。これが「3DCGを描く」ということになる。

3DCG技術の発展

3DCGの技術は、どんどんどんどん発展している。その発展は、コンピューターそのものの発展と、3DCGソフトの発展の両方で成り立っている。

面の数

例えば上で述べた「小さな面」。ペーパークラフトでキャラクターの顔やドレスのように滑らかな形を表現するには、たくさんの面が必要になる。面が多ければ多いほど、滑らかな形が表せる。でもコンピューターの性能には限界があるので、取り扱える小さな面の数にも限界がある。3DCGがはじまったばかりの頃は、この面の数の限界が、本当に少なかった。

バーチャファイター 10th 復刻版 クリア動画 -

この動画は、3DCGが多少発展した頃のゲームのものだけれど、キャラクターたちの姿はとてもカクカクしている。一度に扱える面の数が少なかったので、どうにか少ない面でかっこいいキャラクターを描こうとした結果だ。

次の動画は、最近の似たゲームのもの。キャラクターの滑らかな姿は、とんでもなく向上してるのが分かる。

PS3//AC『ULTRA IV ...

この発展には、コンピューターそのものの性能向上が欠かせない。コンピューターは物凄い勢いでその性能を上げてきたので、昔はせいぜい何百枚かの小さな面が限界だったのに、今では数億枚だって可能になってる。でもコンピューターの性能だけではなく、そんな大量の面を、より滑らかに、より自然に見せるソフトウェアの発展も、同じぐらい重要。その両方が発展したからこそ、今では現実の人間や物と区別がつかないぐらい、小さな面で作られた3DCGが可能になった。

上で挙げた動画はゲームのものだから、映画のようにじっくり時間をかけてひとつの絵を作れるものとは事情が違う。でも全てが小さな面でできていることには変わりなく、使われている技術や発展の様子もほとんど同じだ。

質感と光と影

3DCGは、ペーパークラフトのように面で作られた仮想の立体を、仮想のカメラで撮影して作る。その撮影された映像の品質を決めるひとつの要素が、上で述べた小さな面の数だ。でも面がどんなに集まっても、そこに質感が無いと、リアルな立体には見えない。

質感を表現するのは、面の色やてかり具合といった要素。これって結局のところ、光が存在してはじめて成り立つものだ。光があるから色が生まれ、光があるからキラリと輝いたりマットにも見える。つまり3DCGの質感を決めるのは、光と、それが面に当たったとき、どんな風に見えるのか決めること。こういった光に対する見え方を決める処理を「シェーディング」と呼ぶ。

シェーディングに限らないけれど、3DCGの発展は観察と理論とソフトウェアの積み重ねだ。

例えば雪に光を当てて、この角度からだとこう見える、この色のライトだとこう見える、そんな観察を繰り返す。そうして得られた情報を理論にする。理論って聞くと難しそうだし、実際難しいけど、「こうするとこうなる」っていう観察を元に、ルールを考えだすものだと思えば良い。最後に、その理論を元にしたソフトウェアが作られる。こうして、「雪に光が当たるとどんな風に見えるのか」ソフトウェアが出来上がる。

あとはこれを、たくさんの面が集まってできたリンゴの形状に割り当てる。そして光を当てて撮影すれば、3DCGのリンゴが出来上がる。

質感にはもうひとつ重要な要素があって、それは影だ。現実の世界には意識していないたくさんの影が落ちていて、それが無数の立体感を生んでいる。だから影の無い世界は、のっぺりとして見える。

3DCGできれいな影を作るのは結構大変だ。現実の影は、複雑で曖昧でどこにでも存在している。でもコンピューターが得意なのははっきりしたものを扱うこと。だから影をきれいに作ろうとすると、たくさんたくさん計算を繰り返して、はっきりしているけど薄い影を、たくさんたくさん積み重ねないといけない。

シェーディングも影も、やっぱりコンピューターとソフトウェアの発展で、物凄く良くなってきた。のっぺりと塗りつぶしたような質感は、手触りまで感じられそうな細さになった。キラキラしたり、半透明だったり、人間の皮膚のようにほんの少し透けていたり、色んな質感が出せるようになった。影だって、べったりくっきり塗りつぶしたような影か、ガタガタの変な形の単純な影だったのが、柔らかく自然にボケた美しい影が描けるようになった。

動き

写真のようにある瞬間だけを切り取った3DCGにはあまり関係ないけれど、映画となると動きが絶対必要だ。3DCGでの動きとは、つまり無数の小さな面で作られた立体を動かすこと。

立体は、人物だったり家具だったり石ころだったりする。人物には人物のそれらしい動きがあるし、その人物が家具にぶつかれば、家具らしく揺れたり倒れたりする。石ころを蹴れば、石ころらしく動いて、飛んだり落ちたりする。こういう動きがどれもそれぞれ自然でないと、出来上がった映画全体が不自然になってしまう。

3DCGのはじめの頃は、それらの動きは単純で規則的なものか、人間がひとつひとつ手で決めたものしかなかった。単純では不自然だし、人間が手で決めるのは時間がかかり過ぎる。動きを扱う仕組みが発展していくことで、これらも劇的に変わってきた。

ひとつは、現実の動きを取り込めるようになった。実際の人間の動きを撮影して、それに合わせて3DCGのキャラクターを動かせるようになった。体の動きだけではなくて、顔の表情まで今では取り込んでいる。すると、人間がひとつひとつ手で決めるより早く、しかもきれいで自然な動きができるようになった。

もうひとつは、複雑な動きを計算できるようになった。例えば雨や雪のように、小さな粒がたくさん集まったもの。例えば石ころのように固い塊。例えばドレスやカーテンのようにひらひらしたもの。そういうものの自然な動きを、計算で作れるようになった。

『アナと雪の女王』のCG

さて、3DCGを構成している要素はもっともっとたくさんあるし、それぞれに凄まじい発展の歴史があり、今も発展している。それらを解説しているときりがないので、ここらで『アナと雪の女王』を見てみよう。

小さな面

『アナと雪の女王』には、小さな面の集まりで作られたたくさんのキャラクターや背景がある。どれもが自然に、滑らかだったりゴツゴツしていたりして、不自然にカクカクしているものはない。「ここには面が足りなかったんだろうなあ」という部分が無いのは凄いことだ。

今の3DCGの技術を使えば、不自然さを感じさせないぐらいにたくさんの面を使った映画が作れるということだ。もちろんモノ作りには予算があるから、たくさんの面をきれいに形作るお金がたりない場合もある。でも『アナと雪の女王』はディズニーの看板作品だから、そんなところで不自然に見えちゃうようなケチはしない。言い換えると、面を増やすのは予算の問題でしかないぐらい、3DCGにとって難しい課題ではなくなったってことだ。

質感と動き

小さな面で構成されたたくさんのものには、それぞれ素晴らしい質感が与えられている。どれかが妙に不自然だったり、いかにもコンピューターが作りましたというのっぺりさもない。そりゃ、予算があればもっともっと質感は追求できるけれど、全てが統一感があってひとつの世界を作っていて、しかもとても美しい。ライティングも影も同じだ。

雪や氷

ディズニーがこの作品で力を入れた3DCGの技術は、もっと自然な雪や氷の表現だ。その点で質感は、これまでの発展でかなり追求されてきた。『アナと雪の女王』で全編を覆う雪は、柔らかな光と透過感が美しい。冒頭から目立つ氷は非常にリアルで、むしろアニメ的なデフォルメされた世界からやや浮いていたほどだ。けれど雪や氷の動きは発展途上だ。

氷は割れる際の挙動以外、比較的シンプルな塊として計算できる。しかし無数の粒でできた雪の複雑な動きは、まだまだ。だからディズニーはこの作品で、より自然な雪の動きに力を入れてきた。

大作の3DCG映画では、その作品に重要な要素をより良く描くために、わざわざ独自のソフトを開発することがよく行われる。そうやって開発されたソフトはその会社の資産となり、次のプロジェクトに生かされたり、時には単体の製品として販売されたりする。ディズニーの3DCG映画の前作『塔の上のラプンツェル』では、髪の毛の表現が力を入れた対象で、その成果は今作にも生かされている。雪や氷ほど目立たないけど、『アナと雪の女王』の髪の毛の表現も、一昔前の3DCG映画よりうんと美しい。で、『アナと雪の女王』では、雪の動きに新たなソフトウェアが作成された。ディズニーはPRも兼ねて、そのソフトの解説動画を公開している。

addon: snow ball test v001 -

3DCGの世界では、雪や水のように、無限に近く細かい無数の粒が作り出す動きを、全てまじめに取り扱っては、いくらコンピューターの性能があっても足りない。そこで、なるだけ少ない粒で、リアルな動きができる仕組みを考える必要がある。

ある粒がある動きをした時に、他の粒にどんな影響を与えるのか。周囲の粒がどんな状況だと、ある粒はどんな動きをするのか。そういった規則が、雪や水の動きの再現の要になる。

動画を見ると、今回のディズニーの仕組みでは、雪の粒が見せる一体感に力を入れているのが分かる。雪がたださらさらと流れては、水にしか見えない。雪はそれぞれの粒が塊で、その塊が引っ付きあったり離れたりする。そして、押せば固まるし、何かにぶつかればばらばらになる。そんな雪の動きをリアルに再現できるよう、実際の雪を観察し、それを元に理論を組み立て、ソフトウェアで実現している。

こういう積み重ねを経て、『アナと雪の女王』のリアルな雪の表現は生み出された。当然次の作品でも、何か力を入れた表現を模索し、3DCGの世界の表現力がアップグレードされる。こんな繰り返しが、3DCGという分野を発展させてきた。アメリカの大規模な映画は、映画だけでなく、今では3DCGの発展を支える大きな柱になっている。大きな予算を投じて魅力的な作品が作られ、それが大きな売上を上げることで、次の投資を可能にする。そうやって得られた発展は、例えばゲームやエンターテイメント全般など他の娯楽、そして医療や学術の分野にも恩恵を与える。

最新の技術を投じて作られる3DCG映画は、3DCGという重要な技術の先端に触れる、素晴らしいチャンスでもある。

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